aergaergrgg
1 : お姉さま 2024/01/20 12:34:11 ID:dJPD4aJk52
スイープ「ロブロイ、ちょっといいかしら」
ロブロイ「…?なんでしょうか…?」
スイープ「…




臆病な自尊心と尊大な羞恥心




スイープ「…」ドヤァフフンゥ…
ロブロイ「中島敦の『山月記』の一節でしょうか…?」
スイープ「…まぁロブロイなら知ってるでしょうね。そうよ、その中島の山月記を読んだわ」


2 : アナタ 2024/01/20 12:34:37 ID:dJPD4aJk52
ロブロイ「『山月記』、読んでみてどうでしたか…?」
スイープ「悲しいお話ね、けど面白かったわ」
スイープ「これ高等部の教科書に載っているらしいじゃない?中等部でまだ初心者なスイーピーにも楽しめるなんて凄いじゃない」
ロブロイ「そこが中島の評価された所ですね」
ロブロイ「あの硬くて古風な印象を持つ文体で初心者でもすらすら読める文章に仕上げたこと、それでいてテンポの良さも特に評価されてまして」
ロブロイ「主人公・李徴が発狂するまでのスムーズな運びは私が一番好きな箇所です...!」
スイープ「そこアタシも好きだわ、テンポ良くてお気に入りよ」


3 : お前 2024/01/20 12:34:52 ID:dJPD4aJk52
スイープ「古風な感じ?の文章はあの時代特有なのかしら?」
ロブロイ「いえ、そういうわけでもありません…そこは彼の育った環境が大きく影響していると思います」
スイープ「?どういうこと?」
ロブロイ「中島の父方の祖父は中国由来の儒学の学者で、その祖父から教育を受けた父は学校で漢学を教える先生でした」
ロブロイ「直接教えられたかどうか確証ないのですが、家には祖父が遺した著書だったり私物だったりがあったらしいので物心つく前から漢学に触れ合えたと言われています」
ロブロイ「その下地があったので、あの古風で読みやすい文章が書けたといわれています」


4 : トレ公 2024/01/20 12:36:10 ID:dJPD4aJk52
スイープ「なるほどね…作者が書く文章はその生い立ちが深く影響してるわけね」
ロブロイ「そうです!著作物を読む際は作者の情報というのは人によってはノイズとして捉えられたりもします」
ロブロイ「ですが『なんでこういう文章なんだろう』という疑問が起きた場合、答えを見つけ出す一番の近道という面もあると思います!」
ロブロイ「なので、作品で疑問が起きた場合はそれを控えるなりして後調べるというのも作品を楽しむコツだと思っています!」
スイープ「そういう楽しみ方もあるのね…勉強になったわ、ロブロイ」
ロブロイ「////」


5 : トレーナー 2024/01/20 12:36:43 ID:dJPD4aJk52
スイープ「決めたわ、山月記を使ってまた映像作品を作りたいわ!」
スイープ「ロブロイ、アンタも手伝いなさい」
ロブロイ「わ、わかりました…!主な登場人物は二人ですので私とスイープさんで…」
スイープ「それは、イヤ」
ロブロイ「え?」
スイープ「主人公はプライド高くていじッぱりな性格で最後は虎でしょ?アタシ達二人のイメージと違いすぎるわ」
スイープ「その友達だったらアンタが似合いそうだけどじゃあ必然的にアタシが主人公じゃない、だから嫌!」
スイープ「というわけで監督はアタシ、それで脚本家はアンタ、これでいきましょう」
ロブロイ「わ、、、わかりました…」


6 : ダンナ 2024/01/20 12:37:19 ID:dJPD4aJk52
ロブロイ「それでは、前みたいに他の皆さんに協力する形でいきましょうか」
スイープ「ナレーションはライス!編集はウインディね!」
ロブロイ「(ウインディさん…また重労働になるだろうから手伝わなくちゃ…)」
ロブロイ「あと役者の方…優しい友人・袁傪は大体の人が当てはまりそうですけど、やっぱり李徴ですよね…」
スイープ「…主人公って元々美少年でどこか自信がないって描写確かあったわよね?」
ロブロイ「はい、あったはずです」
スイープ「フフン…ちょうどいいのがいるじゃない」

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----

スイープ「というわけでシュヴァルグラン!アンタはアタシが撮る映画に出演しなさい!」
シュヴァル「え、え~…!?」


7 : アネゴ 2024/01/20 12:37:59 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「(なんで僕が…!?しかも主役!?ムリムリムリ!僕には無理だよ!)」
シュヴァル「(ここは当たり障りのないことを言って…)」

スイープ「…!」←早くやるって言いなさい♪!という顔
ロブロイ「…」←あ、あの…無理しなくても大丈夫ですからね…?という顔

シュヴァル「(い、言い辛い…)」
シュヴァル「(どうしよう…)」

???「あら?珍しい組み合わせね?」
シュヴァル「あ…く、クラウンさん…!」
クラウン「你好♪シュヴァル、スイープさん、ロブロイさん♪」


8 : 相棒 2024/01/20 12:38:39 ID:dJPD4aJk52
クラウン「ねえねえ、何話してたの?私にも聞かせてほしいわ♪」
シュヴァル「(!そうだ、クラウンさんなら分かってくれるはず!)あー…えーっと~……」
シュヴァル「(出来るだけ困った感じで話す!伝われ~~~~!!)」





クラウン「面白そうじゃない!!シュヴァル、やった方がいいわ!」
シュヴァル「(クラウンさん!!!??!?)」


9 : 相棒 2024/01/20 12:39:20 ID:dJPD4aJk52
スイープ「フフン♪じゃあ決まり…
シュヴァル「ちょ、ちょっと待ってて下さいねー…!」クラウンノウデヒキー



シュヴァル「クラウンさん!!僕には無理だよ!!!」
クラウン「…あなた、私にフォローして欲しそうな目送ってたでしょう?」
クラウン「やりたくないなら自分でちゃんと言う、それが礼儀よ?」
シュヴァル「うう…」


10 : モルモット君 2024/01/20 12:40:02 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「…や、やりたくないわけじゃない…!…です…!」
クラウン「…そう、聞かせて頂戴?」
シュヴァル「…少しは興味あるよ、でも僕が頼まれたのは主役なんだ」
シュヴァル「主役なんて僕には似合わない…それに上手くやれるか分からないし、上手くいかなくて恥ずかしい思いしちゃうかもしれないし…
クラウン「…あなたったらもう…」ハー…

クラウン「あなたの良いところはそういった謙虚な所なのは知ってるわ」
クラウン「でも僻み過ぎは、ダメ」
クラウン「そうやって後ろ向きすぎると逃げ癖がついちゃうわよ?」

クラウン「…それと、そういう考え方をしているのなら益々主演として出ることを望むわ」
シュヴァル「…………」


11 : お前 2024/01/20 12:41:04 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「…ねぇクラウンさん」
シュヴァル「クラウンさんは、なんで僕にこだわるの?」
シュヴァル「僕はあなたに何かしてあげたことなんてないのに…どうして?」
クラウン「…あなたの今の考え方を知ったのもあるけど、題材が『山月記』って聞いたからよ」
シュヴァル「『山月記』だから…?」


12 : トレーナー君 2024/01/20 12:41:51 ID:dJPD4aJk52
クラウン「私は読んだことあるの、山月記」
クラウン「主人公は才能があるのに自意識が邪魔しちゃっておちぶれて悲しい結果になっちゃったって人」
クラウン「嫌な人よね?でも彼は気づかないままじゃなくて最後の最後で気づくの、『こうまで落ちぶれさせたのは私が持っていた過剰な自意識と羞恥心だった』って」
クラウン「私はあなたを聡明だと思っている…でも人一倍繊細な子だとも思っているわ」
クラウン「だからやってほしいの、これからその繊細さで自分の可能性を押しつぶされてしまわないように…」
クラウン「これが、あなたの友人としての、サトノクラウンの理由よ」
シュヴァル「…クラウンさん…」
クラウン「…一度、スイープさんたちに聞いてみたらどう?」
クラウン「あなたの純粋な疑問を聞くだけでもいいと思うわ」

シュヴァル「…」


13 : アンタ 2024/01/20 12:42:34 ID:dJPD4aJk52
スイープ「遅いっ!!いつまで待たせるつもりよ!!」
シュヴァル「ごめん…」
シュヴァル「…一つだけ聞かせて」
スイープ「?」
シュヴァル「君はそもそも何で自主制作映画なんて作ろうとしたの?」
スイープ「面白かったからよ」

シュヴァル「え?」
スイープ「面白かったから分かりやすいようにして、他のみんなに良さを伝えたいじゃない?」
スイープ「おかしいかしら?」
シュヴァル「…」


14 : トレピッピ 2024/01/20 12:43:21 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「…変…じゃないよ」
シュヴァル「…『山月記』だっけ?題材にするのって」
ロブロイ「は…はい…!」
シュヴァル「…原作を実際に読んでから判断したいんだ…出演の話」
シュヴァル「時間は取らせない…だからもう少しだけ待ってほしい」
スイープ「…読みなさい」
スイープ「絶対面白いから…」(フフン





数か月後


15 : アナタ 2024/01/20 12:44:06 ID:dJPD4aJk52
─食堂の一角─

スペ「へ~!今回は食堂でやるんですね!」
ロブロイ「はい…!前にやった『杜子春』が先生方にも評判が良くて…!食堂の一角ですけど貸していただくことができました…!」
マルゼン「今日やるのは『山月記』なのね…あたし昔授業で習ったわよ!懐かしいわ~♪」
キング「(懐かしい…?)」

ワイワイガヤガヤ

???「…」
「「シュヴァル」」
シュヴァル「…姉さん、クラウンさん…!」


16 : お前 2024/01/20 12:45:00 ID:dJPD4aJk52
ヴィルシーナ「遂に上映するわね」
ヴィルシーナ「映画に出るって聞いたときは嬉しかったけれど同時にちゃんとやれるか私心配で心配で…あなたほら?繊細なところあるじゃないそれで
ヴィブロス「お姉ちゃ~ん早くいこ~!」ガシィ
チョットヴィブロス?ワタシマダア~

クラウン「フフ、お姉さん、相変わらずね」
シュヴァル「うん…恥ずかしいからやめてほしい…」
クラウン「『あなたが心配だから私もでるわ!』言って急遽でることになったりして…本当に妹想いの人ね♪」
シュヴァル「…///そういうところなんだけどな…///」


17 : トレーナー君 2024/01/20 12:46:04 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「…その、クラウンさんもありがとう…一緒に撮影に参加してくれて」
クラウン「私が参加したかっただけよ、とっても楽しかったわ」
シュヴァル「…うん、僕も…

スイープ「アンタたち始まるわよ!早く来なさい!」
クラウン「あらもう始まるみたいね…何か言いかけたけど…?」
シュヴァル「…ううん、これ見終わったら、絶対伝えるね」
クラウン「…わかったわ♪」


ライス「えっと、これから『山月記』を上映します。ナレーションは私、ライスが担当するね…!」


─ 「山月記」 原作:中島敦 監督:スイープトウショウ 脚本:ゼンノロブロイ ─


18 : アナタ 2024/01/20 12:46:49 ID:dJPD4aJk52
その昔 内陸の地方に 李徴(シュヴァルグラン) という娘がいました
彼女は幼いころから優秀で 恵まれた娘 でしたが


シュヴァル「僕は天才だ」
シュヴァル「周りはできの悪い上司に媚びを売っていかないと出世もままならない凡人以下…なんで天才の僕がこんな奴らと一緒に仕事しないといけないんだ…?」

性格は最低でした


19 : アンタ 2024/01/20 12:47:35 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「ここにいたら僕はダメになる…よし、辞めてやるぞ!」

エリートだった彼女はすぐに仕事をやめました
そして故郷に戻り人との交流を完全に絶ち あることに熱中し始めるのです

シュヴァル「僕は詩人になるぞ、つまらない仕事人で一生を終えるよりも僕は成功して100年名前を残すんだ!」
シュヴァル「天才の僕ならすぐ成功するだろうな…えへへ」


しかし

シュヴァル「なんで…?なんでなんでなんでナンデ…!?ぜ、全然上手くいかないよぉ…;;」

彼女は秀才でしたが  天才ではありませんでした


20 : 貴様 2024/01/20 12:48:19 ID:dJPD4aJk52
彼女は焦り 日中も詩作にふけるようになったため 生活は苦しくなる一方でした
結婚をして子供も作り 旦那さんだけの稼ぎでは生活がままならないのです
その結果 肉は落ちて骨が出て 余裕のない顔つきばかり日に日に増していき ボーイッシュで可愛らしいあの面影は もうありませんでした

そのような生活を数年続けたのち


シュヴァル「…仕事するか…」

自分の才能に疑問を持ち始めたため 困窮に耐えきれなかったため 彼女は仕その日暮らせるだけの糧のため またつまらない仕事人になりました


21 : トレぴ 2024/01/20 12:49:12 ID:dJPD4aJk52
数年のブランクは 彼女の自尊心を傷つけるには十分でした


ヴィルシーナ「李徴、これお願いね」
ヴィブロス「せんぱーい♪私のもおねがーい♪」

シュヴァル「…ハハ、同期と後輩は今じゃ手の届かないところまで出世…あの馬鹿にしてた凡人たちも一緒に出世してる…」
シュヴァル「立場上僕はあいつらに頭を下げなきゃいけない」
シュヴァル「…何やってんだろ、僕」


22 : キミ 2024/01/20 12:51:05 ID:dJPD4aJk52
一年後 彼女は遂に我慢の限界に達しました
出張先で就寝中 いきなり発狂したのです

シュヴァル「…ッ!」

急にベットから起き上がり 喚くように叫んだかと思えば そのまま宿を飛び出し 闇の中へ駆け出したのです
彼女は二度と戻ってはきませんでした
いくら探しても何の手掛かりもなく 次第に彼女のことを覚えていく人は徐々に減っていくのでした
 
 
 
 
 
 ......


23 : アナタ 2024/01/20 12:51:56 ID:dJPD4aJk52
それから 一年

???「袁傪さま…やっぱりやめとくべきだったのだ…今からでも引き換えそうなのだ…」
袁傪という女「今戻ったら朝になっちゃうでしょ?せっかく早めに出たのに意味がなくなるじゃない?」

部下(シンコウウインディ)をいなした女性は袁傪(サトノクラウン)と言って 国の役人・監察官として任に就き 部下を引き連れ出張中でした

ウインディ「そういうことじゃないのだ!さっき中継部署の男が言っていたぞ!」
ウインディ「この辺りは夜、虎が出るって…!た、食べられちゃうのだーッ!」
クラウン「落ち着きなさい。たとえ出たとしてもこっちはあなたもいるじゃない?どうにかなるわ♪」
ウインディ「…そもそも急ぎだって勘違いして出発した袁傪さまに問題が…(ブツブツ」
クラウン「嫌ならあなただけ戻ってもいいわよ?(ニッコリ」
ウインディ「お供するのだ」


24 : お姉さま 2024/01/20 12:52:43 ID:dJPD4aJk52
しかし しばらくすると

ウインディ「あ…」



.......




役人の言った通り 本当に虎は現れたのです
それもただの虎ではありません 目は血走り 明らかに"喰らってきた"獣でした


25 : 貴様 2024/01/20 12:53:53 ID:dJPD4aJk52
ウインディ「た、食べられ…!」

虎「…」バッ!
ウインディ「ひぃ!」
クラウン「くっ!下がってて!食べるなら私を食べなさい!」
虎「…!」

クラウン「…え?」
ウインディ「草むらの中に隠れた…?」


あぶなかった…あぶなかった…

聞き覚えのある声だった


26 : モルモット君 2024/01/20 12:55:29 ID:dJPD4aJk52
クラウン「…!その声…もしかしてあなた!」
クラウン「その声は、わが友、李徴子ではないか!?」

思わず袁傪は 叫びました
李徴とは同期にして 孤独だった李徴にとって数少ない話せる友人だったため 袁傪もよく覚えていたからです
そのため 虎だというのに李徴の名ではないかと尋ねたのであった

李徴?「…」

しばらく返事がなかった
しのび泣きかと思われる微かな声が時々漏れるばかりで襲い掛かることもなかったが 遂に低い声が答えた


─ そうだよ
「僕は李徴だ」


27 : トレピッピ 2024/01/20 12:56:20 ID:dJPD4aJk52
虎が李徴(シュヴァルグラン<虎のコスプレ>)だと知ると袁傪は 不思議にも恐怖を感じなくなりました


クラウン「…ねぇ、どうして草むらに隠れてるの?」

シュヴァル「…君も見ただろう?僕は今ヒトじゃないんだ…怖がるにきまっている…!」
シュヴァル「…でも、君に会えたのは嬉しいんだ…それに懐かしい…」
シュヴァル「…君さえよければ、ちょっとだけ僕の話に付き合ってくれないかい?」

クラウン「…もちろんよ」
クラウン「あなた、今から私は友人と話すことにします。ちょっと休んでなさい」
ウインディ「どう考えても虎なのだ…こいつヤベーのだ…(わかったのだ)」


28 : トレーナーちゃん 2024/01/20 12:57:24 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「そうなんだ…君も出世したんだね…おめでとう」
クラウン「…李徴、単刀直入に聞くわ」
クラウン「あなたはどうして、虎の姿になってしまったの?」
シュヴァル「…一年前、僕が失踪した時のことさ」
クラウン「出張中のことね」

シュヴァル「…寝てるときに、僕を呼ぶ声がしたんだ」
シュヴァル「外から聞こえたから出てみても呼びかけてきて…僕は無我夢中で声のする方へと走っていたんだ」
シュヴァル「行く先はいつのまにか山の獣道へと続き、気づけば手を地面につけて走っていることに気づいた」
シュヴァル「不思議なことに違和感はなかった…全身に力が満ちてて、岩石なんて軽々飛び越えられた…気持ちよかった」

シュヴァル「そして少し冷静になってきて分かった、手先から肘辺りにまで獣のような毛が生えていたことを」
シュヴァル「少し明るくなって谷川に映し出された自分の姿を見てみると、僕は虎になっていた」
シュヴァル「信じられなかった」


29 : アナタ 2024/01/20 12:58:18 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「自分の眼を疑ったし、夢を見ているんだと言い聞かせた」
シュヴァル「でも、いくら言い聞かせても夢からは覚めなかった…怖かった、もう何も考えられなかった」
シュヴァル「『理解する間もなく押し付けられた運命を大人しく受け入れて、理由も分からずに生きていく』…これがヒトなんだと思っていた」
シュヴァル「けれども、これだけはどうしても受け入れられなかった

だから僕は、死のうとした




…でも僕はその時にはもう、ヒトではなく獣になっていたみたいだ」


30 : お姉ちゃん 2024/01/20 12:59:23 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「野兎がね、僕の目の前を駆け抜けたんだ」
シュヴァル「そしたらそこからの記憶がなくなって…気が付いたら口に血がべっとり…野兎の毛も近くに散らばっていた

そして僕は、腹を満たして死ぬ気が失せていた」

シュヴァル「これで僕は、もうヒトじゃなくなったんだと理解した」


31 : トレぴ 2024/01/20 13:00:10 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「それ以来、僕が今までどんなことをし続けて来たか、とてもじゃないけど言えない」
シュヴァル「ただ一日に数時間だけヒトの思考が戻ってきた。その時だけこんな姿になる前と同じことができた」
シュヴァル「…でも、その時間も日に日に短くなっている」
シュヴァル「どんどん僕のヒトとしての思考が畜生の習慣に埋もれていっている…今はそれがたまらなく怖いんだ」
シュヴァル「いっそ全部埋もれてしまえば幸せだと思う…けれども僕の中のヒトは、それをとっても怖がっている」


32 : キミ 2024/01/20 13:01:03 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「袁傪…君には理解できないよね?僕の切ない気持ち哀しい気持ち…ヒトだった頃の記憶がなくなっていく気持ちなんて」
クラウン「…」
シュヴァル「…そうだ、君にお願いがあるんだ」
シュヴァル「僕は詩人として名を成すためにその道に進んだ…だけど僕はそれを成せなかった」
シュヴァル「記したものはもうどこにも残っていないと思う…でも、数十の特に思い入れのある詩は今でも覚えているんだ…君にはそれを記録してほしい」
シュヴァル「自分の生涯をかけて執着したものを、僕は少しでもいいからどうしても残したいんだ」
シュヴァル「…そうじゃないと、死んでも死にきれないよ…」


33 : アンタ 2024/01/20 13:02:00 ID:dJPD4aJk52
クラウン「…わかったわ」
シュヴァル「!袁傪…!」


袁傪は部下に命じ 筆を執って草むらの中から聞こえてくる声に従って書き取らせました

シュヴァル「~!」
クラウン「…」
クラウン「(高雅で卓逸…李徴の優れた才能が良くわかる詩に違いないわ)」
クラウン「(…でも)」
クラウン「(何か物足りない…一流の出来ではあるけれど時代を越えて語られるような…そうなるにはどこか物足りない詩でもあるわね…)」


34 : トレぴっぴ 2024/01/20 13:03:03 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「…これで、終わりだよ」
クラウン「確認した、あなたが残したかったもの、確かに書き取ったわ」

シュヴァル「…あはは、アハハハハハハッ!」
クラウン「…!?李徴…?」
シュヴァル「これで、立派な詩人になれるなんてこれっぽっちも思っていないはずなのに」
シュヴァル「僕は、まだ詩人としての成功を諦めきれていないみたいだ」
シュヴァル「都会の風流人たちに素晴らしいって称賛される夢もまだ見ることがあるんだ…それを!岩窟の中で横たわっているときに見るんだよッ!」
シュヴァル「…情けない…情けなさすぎるよ…笑ってよ…こんな哀れな僕を笑ってしまえよ…」

クラウン「…李徴」


35 : ダンナ 2024/01/20 13:05:13 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「…思いついた」
シュヴァル「笑い話のついでだけど、今のこの思いを即興で詩にしてみたんだ…これもぜひ、残してくれないかな?これこそが、僕の生きている証拠だよ!」

袁傪は ただただ 悲しかった
李徴には 自嘲癖があった
美少年だった若いころから自嘲癖のあったあの頃と 今の似ても似つかない虎の姿が合わさってしまっている この友人の姿が
ただただ 悲しかった

クラウン「…わかったわ、存分に詠いなさい」
クラウン「一遍も残らず、書き残すわ」

シュヴァル「…!~~~~!」

袁傪はまた部下に命じて詩を書き留め始めました
友人の気が済むまで


36 : 貴方 2024/01/20 13:06:00 ID:dJPD4aJk52
クラウン「(…朝日の気配…そろそろ夜が明けるのね)」
シュヴァル「…ありがとう」
シュヴァル「…なんで、こんな姿になったのか…実は思い当たることがなくはないんだ」

シュヴァル「ヒトだった時、僕はヒトとの交わりを避け続けてきた」
シュヴァル「だから僕は傲慢だとか尊大だとか言われ続けた」
シュヴァル「…今思えば、それがほとんど羞恥心に近いものだと、みんな知らなかったんだ」
シュヴァル「もちろん、天才と言われてた僕にも自尊心がなかったわけじゃないんだ」

シュヴァル「ただそれは、"臆病な自尊心"というべきものだったんだ」


37 : 大将 2024/01/20 13:08:00 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「詩で名を成すと思いながら、自分から師に就いたり、求めて詩友と交わって、切磋琢磨することもしなかった」
シュヴァル「かと言って俗物と交流を深めるなんて真っ平だった

全部、臆病な自尊心と、尊大な羞恥心のせいなんだ

僕は、自分が天才じゃないかもしれないことを恐れ、敢えて苦労せず
そして、自分は天才なんだとも信じるようにしていたから、努力もしなかったんだ
だからどんどんと、浮世離れしていって、ヒトと遠ざかっていって、運よく機会が回っても噛みつくようにしか交われなかったから、
僕は、自分でその臆病な自尊心と尊大な羞恥心を育ててしまっていたんだ」


38 : トレーナーさん 2024/01/20 13:09:24 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「今思えば、僕はちょっとの才能に満足して、それさえも無駄にしてしまった」
シュヴァル「それっぽいことを言って才能があるようにふるまって、実際はそんなでもないということがバレてしまうかもしれないって卑怯な危惧と、それなのに苦労を面倒くさがる怠惰、これが僕のすべてだったんだ」

シュヴァル「…もう僕は普通の生活には戻れない。例え、今天才的な詩を考えたとしてもね、もう虎だから無理だよ」
シュヴァル「…人生、無駄にしすぎたなぁ…」
シュヴァル「たまに、空に向かって吠えたりするんだ」
シュヴァル「こうすれば、誰かに気づいてもらえると思って」
シュヴァル「…でも、ヒトも、獣も、木々も、誰も僕が李徴だと気づいてくれない」
シュヴァル「…こうやって僕は、日に日に虎へと近づいていくんだ」


39 : お前 2024/01/20 13:09:56 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「…もう朝はすぐそこだね」
シュヴァル「お別れの時間だ、また"酔わねばならぬ"時が近づいてるみたいだ」

シュヴァル「…最後に、お願いがあるんだ」
シュヴァル「僕の家族のことなんだけど…君の口から李徴は死んだのだと伝えてほしいんだ」
シュヴァル「これで、あの人たちも心残りがなくなると思うんだ」

クラウン「…うん、必ず伝えるわ」


40 : お姉ちゃん 2024/01/20 13:10:58 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「…ははは、やっぱり僕は獣だ」
シュヴァル「普通、まずはこれを最初にお願いするべきだったんだよ」
シュヴァル「辛い思いをする家族よりも、やっぱり僕は自分の乏しい詩の方が気になってしょうがないようなヤツなんだ」
シュヴァル「…ハハハ、やっぱり、僕って…」

シュヴァル「袁傪」
シュヴァル「もしまたここを通ることがあるなら、絶対通らないでほしい」
シュヴァル「その時はほんとうに、友である君を襲ってしまうだろうから」
シュヴァル「でも君は優しいからそれでも会いに来てくれるのかもしれない」
シュヴァル「だから、あの丘の上まで行ったらこっちの方に振り返ってほしいんだ」
シュヴァル「僕はこの姿を晒す、そしてそれを目に焼き付けてほしい」
シュヴァル「こうすれば、僕の醜悪な姿を見て再び僕に会う気が起きないはずだから」


41 : マスター 2024/01/20 13:11:46 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「…もう、ダメみたいだ」
シュヴァル「…早くいって

ウインディ「袁傪さま…」
クラウン「…行こう」
クラウン「さようなら、李徴」




うう・・・・ううう・・・うううううう・・・・!!う゛ウ゛ウ゛ウ゛゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛・・…・・…・・・・!!!!”!!!!!!!



クラウン「(李徴…)」


42 : モルモット君 2024/01/20 13:12:50 ID:dJPD4aJk52
こうして 夜が明けました
草むらからはヒトのすすり泣くような声と 虎のうなり声が混じった声が漏れ それが別れを惜しむ声にも聞こえ 必死に耐えているようにも聞こえました
袁傪も涙を流し どうにかして丘の上へと向かい 言われた通り振り返って 先ほどの草むらを眺めると 一匹の虎が姿を現しました
虎は 既に白く光を失った月を仰いで 二声三声咆哮したかと思うと また 元の草むらに戻っていき 再びその姿を見せることはなかった 

袁傪は あの虎のことを あの虎の咆哮を 忘れはしませんでした







.


43 : トレぴ 2024/01/20 13:13:48 ID:dJPD4aJk52
─その日夜─


シュヴァル「ううさぶい…打ち上げの空気なれなくて逃げちゃったけどいいよね…」
シュヴァル「…あっという間だったなぁ」
シュヴァル「打ち合わせから撮影まで、すごく時間をかけて作ったのに完成したものは数十分程度の映像」
シュヴァル「正直労力に対して見合ってない…かもしれないけど…」
シュヴァル「…でも、楽しかったなぁ…」


44 : トレーナー君 2024/01/20 13:15:06 ID:dJPD4aJk52
クラウン「あーここにいた!」
クラウン「早く戻りなさい、お姉さんが大変なことになってるわよ」
シュヴァル「…じゃあ、もうちょっとだけここに残ってようかな」
クラウン「…あら、言うようになったわね♪」
シュヴァル「えへへ…」


45 : お姉ちゃん 2024/01/20 13:16:35 ID:dJPD4aJk52
クラウン「みんなあなたの演技、ほめていたわよ」
シュヴァル「うん…スぺさんにキングさん…みんな僕のこと褒めてくれてた…」
シュヴァル「それにスイープさんにロブロイさん…」


-----------------

スイープ「まあ、大体は私のおかげだけど…シュヴァル!今回の成功、悔しいけどアンタのおかげだわ」
ロブロイ「はい…!プライドが高く、それでいて自分の理想とのギャップに苦しめられる李徴をシュヴァルグランさんは完璧に演じていたと思います…!流石です…!」

-----------------

シュヴァル「比べることじゃないんだけど」
シュヴァル「僕を選んでくれたあの二人に、褒められたことが一番うれしかったな…」
クラウン「…そうね」


46 : トレーナーちゃん 2024/01/20 13:18:03 ID:dJPD4aJk52
シュヴァル「クラウンさん」
クラウン「何?」
シュヴァル「上映する前の続きだけど…僕、楽しかったよ」
クラウン「…そう、私もよ、シュヴァル」
シュヴァル「…あとね、クラウンさん」
クラウン「…何?」




僕は、なるよ
君を越える 偉大なウマ娘に


.


47 : マスター 2024/01/20 13:19:15 ID:dJPD4aJk52
クラウン「…!」
シュヴァル「今回を通して分かったんだ」
シュヴァル「もっと、速く走りたい」
シュヴァル「レースで一着が取りたい」
シュヴァル「自分の可能性を広めたいんだ」

シュヴァル「そして僕は、君に勝ちたいんだ」


48 : トレーナー君 2024/01/20 13:20:05 ID:dJPD4aJk52
クラウン「…いいわ、その宣戦布告、受けて立ちます」
クラウン「私も全力を持って、貴方に勝ちます」
シュヴァル「…ありがとう、クラウンさん。それでお願いなんだけど…!」
クラウン「うん?」



シュヴァル「あ、明日!一緒に、練習しない!?」


クラウン「…え?」
シュヴァル「ほ、ほら、山月記でもあったけど『臆病な自尊心と尊大な羞恥心』!
ぼ、僕にはこれが人一倍強いと今回で分かったから、これを機に色んな人と練習と交流を深めることでこの二つをなくしていきたいんと思ったんだ!


49 : トレぴっぴ 2024/01/20 13:22:26 ID:dJPD4aJk52
クラウン「…プ、あっはははは!」
クラウン「シュヴァル、宣戦布告しておいて一緒に練習って…もうッ♪」
シュヴァル「わ、笑わないで!ぼ、僕は本気ですよ…ッ!」
クラウン「わかったわ」
シュヴァル「え?」
クラウン「貴方の決意、これもしかと受け取りました…練習しましょ♪」
シュヴァル「…ありがとう///」
クラウン「もー何照れてるのよ♪」

クラウン「…その意気よ、シュヴァル」
クラウン「本当に、本当に成長したわね…シュヴァル」


50 : お姉ちゃん 2024/01/20 13:23:49 ID:dJPD4aJk52
シュヴァルーーーーー!!!!!!!!!!!!オネエチャンハココヨーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?

クラウン「…戻ろっか♪」
シュヴァル「はい…!」



おわり

中島敦 より 『山月記』
https://www.aozora.gr.jp/cards/000119/card624.html


51 : 使い魔 2024/01/20 13:24:38 ID:dJPD4aJk52
おまけ


ヴィブロス「シュヴァちにくっつく形だったけどー、私たちも参加できたね~お姉ちゃん☆…お姉ちゃん?」
ヴィルシーナ「表情が少し硬いような気がするって言ってあげるべきかしらでもあれはシュヴァルの考えてだした表情かもしれないしそれに水を差すことになりかねないわでも明らかに肩肘に力入りすぎてるし言ってあげた方がいいわよね
…ん?サトノクラウンさん…?…シュヴァルに私が言おうとしてたこと言ってるわ…
…別にいいわよ?シュヴァルの次に出番多いのにそういった細かいところに気づけるのは感服しますでもちょっと距離感近くないかしら?これを他の人に分け隔てなくやっているなら私はもう何も言いませんでもそのやさしさが明らかにシュヴァルにだけ向いているような気がしますあなたにもファンがいますそのファンに勘違いさせないためにももう少し私の"妹"との距離感考えるべきなんじゃないかしらそれとあと



ヴィブロス「お姉ちゃん、気持ちわる~い☆」
ヴィルシーナ「うう・・・・ううう・・・うううううう・・・・!!う゛ウ゛ウ゛ウ゛゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛・・…・・…・・・・!!!!”!!!!!!!」


52 : トレ公 2024/01/20 13:24:47 ID:dJPD4aJk52
本当に終わり
駄文でしたが、ありがとうございました


53 : アナタ 2024/01/20 13:44:26 ID:GmvhBo.K.6
力作乙でした
虎のコスプレしてるシュヴァちとか可愛すぎひんか?


57 : 貴様 2024/02/07 05:33:16 ID:oPbEHw2dQA
面白かったです!多分袁傪は人当たりの良い自分とは対極的だった昔の李徴のことを結構好きだったんだろうな...


55 : トレーナーちゃん 2024/01/20 14:27:37 ID:99/8bzapMA
最近シュヴァル育成してたのでタイムリーで面白かった



引用元:ウマ娘で学ぶ名作文学「山月記」